多くの示唆を得ることができる本書「働かないアリに意義がある」ですが、
イノベーションとの関係性についても考えてみたいと思います。
働かないアリに意義がある<働かないアリに意義がある> (メディアファクトリー新書)posted with amazlet at 15.10.11KADOKAWA / メディアファクトリー (2013-05-24)
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働かないアリの意義は、組織の余力としての役割があるということをメインに解説されています。
短期的な効率性は落ちるものの、長期的な存続可能性を増大させているということです。
また、その「働かなさ」は「個性」という形で遺伝の多様性によって個体ごとに異なるということも述べられています。
その「個性」は、「働かなさ」だけではなく、アリの辿るフェロモンの正確性の程度にも考えられ、その正確性の違いが効率的ルートの偶発的発見に役立つということも触れられています。
バカなアリが、そのバカさ故に偶発的に効率的ルートを発見するということです。
これはなんとなくわかると思います。スーパーエリートの人間がイノベーションを起こすこともありますが、それはある程度「計算された」イノベーションであり、大学中退のスティーブ・ジョブズが起こしたような根源的な破壊的イノベーションを起こすのは、ある意味エリートの道から外れた人が多いという点です。
もちろん、母数的に、エリート学校卒よりも学歴が低い人の人数のほうが圧倒的に多く、確率的にそうなりやすいということもあると思いますし、そもそもエリートは保証された高収入を失うというリスクを犯してまで、起業のようなイノベーションを行うインセンティブが働きにくいということもあることでしょう。
ここでの考察は、そのような結果としての確率論的なことではなく、イノベーションを起こすプロセスとして、バカさ(通常取りうる最適解の方法をとらずに、別の方法を試してしまうこと)が重要になってくるということです。
もちろんほとんどのバカな行動は、ただのバカという形で終わってしまうことでしょう。
しかし、そのバカさがごく稀に大きな革新につながり、バカな行動によって社会が受けた不利益の総計を相殺してしまうほどの大きな恩恵を社会に還元されることが重要なのです。
バカさというのはつまり、「無駄に見える行動」ということです。
書籍中にも述べられていますが、人間社会は一見、無駄なことであふれていますが、その無駄によって非連続なイノベーションを起こしてきたともいえます。
長期的視点で振り返った時、無駄と考えられてきた行為が、非連続な革新を生むための必要不可欠な行いだったということもありうるのです。
「無駄」というのはある視点から判断した結果ですが、視点が変われば、無駄は無駄でなくなるということです。
スティーブ・ジョブズが「点と点がつながる時がくる」といっていたように、人生の中で、無駄だと思っていた経験が、最終的に大きな果実を生むことがあります。
人生なにが起こるかわからない、人生に無駄なことはない。
だから、全ての人に生き続ける価値がある、といえるのではないでしょうか。